水谷修先生の講演に行った。
場所は、とある高校の講堂。
その講演があることを知り、無理をお願いして
全校生徒と保護者たちに混じって
お話を聞かせてもらったのだ。
彼は「夜回り先生」として今や全国的に有名な教師。
現在は教壇を下りられて講演活動をしていられるが、
一日の仕事が終わると夜の街を回り
道を誤ろうとする少年少女一人一人に声をかけて回り、
彼らをドラッグや暴力団の手から救うという
体をはった仕事をもう十数年も続けておられる。
先生が面倒を見ていた子の中で
ドラッグや自殺で亡くなった子供も多く
先生はそれをすべて「自分が殺してしまった子」として
十字架を背負い、身を投げ出して、
夜回りを続けているのだ。
午後1時すぎの講堂に
生徒たちがぞろぞろと入ってきた。
通常の授業をとりやめての講演。
みんなはしゃいだりふざけたりで
全校生徒が席につくまでに数十分かかった。
それでもやめないおしゃべり。
「口を閉じろ!」「キョロキョロするな!」
そんな言葉を教師が何度も何度も繰り返さねばならぬほど、
彼らはまだ子供なのだった。
水谷先生が壇上に立たれた。
「おい、よく聞けよ、お前たち」
柔らかく深みのある声。
先生は間髪をおかず、どんどんしゃべり始めた。
夜の世界の悲惨さ、ドラッグの怖さ、
いつでも隣り合わせにある落とし穴に落ちて
命を落としていった子供たちの話・・。
それまでガヤガヤとしていた講堂が瞬時にシーンとなる。
フラフラ動いていた子供たちの頭が
微動だにしなくなった。
私は、先生の声をほんの数分聴いているだけで
涙があふれてきた。
先生が子供たちへ語る話は
自分への救済でもあるような気がしたからだ。
悪の道に足を踏み入れたりドラッグに依存する恐怖を
語る先生のお話には、
「人間として常に誠実に生きろ、他人を思いやれ」
というメッセージが強くこめられていて、
そしてそこには
人間が時として犯してしまう過ちまでをも包み込む、
深い優しさがあった。
先生の柔らかく温かい声は、私の中に
乾いたスポンジが水を吸うようにしみわたった。
どうしてもこの講演を聴かなければいけない衝動にかられて
先生に会えたことは、人生の大きな宝のように思う。
こうして心の宝をひとつひとつ増やしていくことが
人生のあるべき姿だと思えば
小さなつまずきや、日常のさ細なことに
心を悩ます必要もないのだろう。
波打ち際ばかり見つめて生きている私、
先生は、遠い地平線まで海を大きく見渡して
洋々と生きておられるのだ。
<夜回り先生>
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