叔母が突然亡くなった。
母の、歳の離れた弟の、奥さん。
彼女は若いこともあって、
私や妹は小さい頃から姉のように慕っていた。
セッちゃん。
いつも明るくて元気で、ママさんバレーのエースで
私の母親と同じように、みんなの太陽だった。
母が亡くなってからの10年あまり、
母方の親戚とはすっかり疎遠になってしまって
どうしているのか、いつも気になっていた。
セッちゃんの娘たち二人、つまり私のいとこだけれど、
最後に会ったときは、まだ中学生と高校生くらいだったと思う。
彼女の訃報を聞いてかけつけると、
その娘たちが、昔と変わらない団地の玄関の前で迎えてくれた。
二人とも、まぶしいほど美しい女性に成長していて、
もう28歳と26歳。
「よかった、まみお姉ちゃん、全然変わってない」と言って
ふんわりと笑う。
セッちゃんのお骨の前で手を合わせても
全然現実味がなくて、
なぜセッちゃんがここにいないのか、不思議な気がするばかり。
「まみー、会いたかったよー、元気だった?」という声が
台所から、今にも聴こえてきそうだ。
立派な大人に成長した娘たちは、
残された父親を気遣い、気丈にしている。
私は、セッちゃんが亡くなった現実に着地することができないまま、
彼女たちとの再会を喜んだ。
無性にうれしくてうれしくて、むしろはしゃいでしまったと思う。
数日前に母親を亡くしたばかりのあの子たちに本当に申し訳なかったと
深く反省している。
なんで、セッちゃんが生きているうちに、
もっと早くここへ来られなかったのだろう…。
そうすれば一緒に、こんなに楽しいときを過ごすことができたのに…
そう悔やむ思いが、今も消えない。
私たち姉妹との再会を待っていてくれた人たちが
そこには他にもたくさんいた。
大の仲良しだったいとこたちや、その子供たち。
小学生だった兄弟が、背の高いイケメンになっていて
「まみちゃん、いくつになったの?」なんて低い声で聞いてくる。
一番上のいとこルミコの子供、チエが、
さらに子供を産んでママになっていた。
10年の歳月…。
私たち姉妹は、いとこの中では下の方で
一番上のルミコは、ひとまわりほど上。
私たちはずっと「チビたち」と呼ばれていた。
いつも最先端のおしゃれをして、ちょっと不良っぽくて
美人でカッコよかったルミコが
さすがに10年会ってないとどうなってるのか
ちょっと怖かったけど、
扉を開けて迎えてくれた満面の笑顔は全然変わってなくて
スタイルも昔のまま。
カットソーにジーンズの短パン、すらりとした足、
逆に仰天してしまった。
ルミコは開口一番、
「あらー、まみ、歳とったら、ママそっくり!」と言う。
彼女をはじめ、いとこたちはみんな
おしゃれなママが大好きだったことをにわかに思い出す。
ママを囲んでタバコを吸いながら
ルミコたちが、仕事や恋やいろんな話をママにしてたっけ。
ママは、この世の答えはすべて知っているというように、
彼女たちにズバリズバリとアドバイスしていた。
そんなときのママは、やっぱりカッコよかった。
ルミコの孫のカイト(2歳、男の子)が
ノンノンノンと言って人差し指を振っている。
「ほら、これ、あたしが教えたの、ママがよくやってたでしょ?」と
ルミコが言う。
母親のチエも「そうそう」と言って笑っている。
ああ、そういえば…。
私が忘れていた母親のしぐさを覚えている人が、今もいる。
遠く離れたこの場所でも、
ママはずっと、みんなの心の中に生きてたんだ。
そう思うと、じんわりとあったかいものに包まれた。
「じゃあ、今度は目をつぶってやってみて」と
ルミコがカイトに言う。
カイトは言われたとおり目をつぶって
ノンノンと大人びた表情で指を振る。
「ほらー、ママにそっくり!」とみんなが笑い転げる。
私も、涙をにじませて一緒に笑った。
セッちゃんが、ここに呼んでくれた。
セッちゃんも一緒に、ママも一緒に、
みんなが笑ってるような気がする。
あの二人が生きていたら、きっとこの100倍、楽しいのに。
だけど、二人が残した世界が、
ここにちゃんと、きらきらと生きて、
どんどん受け継がれていくよ。