春が来た。
待てば来る、春なり。
庭の梅が今年はよく花をつけている。
濃いピンク色の花に、うぐいす色のめじろが何匹もたわむれて
日本画のようだ。
先日、上野動物園に行った。
昔、人でぎゅうぎゅう詰めだったパンダ舎の前には
パラパラと人がいるだけ。
昔、日本中の話題だったカンカンとランランは
横にあるパンダの系図を見ると
もはや亡き、おじいちゃんとおばあちゃんだった。
なんだか浦島太郎の気分。
でも、動物園ってのはおもしろい。
子供のときはぜんぜんおもしろくなかったけど。
あの頃は、そこにいる間じゅう、
ホットドック食べたいな、とか、
そろそろノドが渇いたんだけど、とか、
晩ご飯はどこで食べて帰るんだろう?、とか、
主に食べ物ネタで頭はいっぱいで、
動物なんて、テレビや図鑑でいつも見てるし、
オリの前はなんだかくさいし、
もう疲れたよ〜、ジュース! みたいな私であった。
子供なら誰でも動物園でハッピーかといえば
そうでもない。
私は、長い年月をへて、
まともな人間の感性を身につけた自分に出会い
ちょっとうれしい。
ナマで見る動物は、
テレビや図鑑のものとは全然違う。
そこが感動どころなわけで。
えさを食べたり、仲間とたわむれたり、
なんとなくボーッとしてたり、
そんな中に彼らの人生を思い、
いつまでも飽きずにながめていられる。
こと、ゴリラに関しては、
広いとはいえ、オリの中に閉じ込められているのは
どうにも理不尽な気がしてならない。
物思いにふけった顔で野菜をかじりながら
ヘタだけペッと捨てるその姿は
キムラさんとか、ヤマモトさんとか、
一般庶民を感じさせ、
気の毒だなあと思ってしまう。
ガラスひとつ隔てたこっちで
フライドポテトをかじりながら眺めてる私は、
にわかに身の置き場に困る。
その夜行った露天風呂で、
裸のまんまベンチでくつろぐご婦人達を見て
昼間の風景を思い出す。
ああ、人間も動物の一員なんだなぁ、
と再び感じ入る。
たまたまオリで隔てられてるけど、
あちら側とこちら側には、さほどの違いはない。
動物園の動物たちは、
与えられた生をただひたむきに生きているのに、
むだな知恵を授かった人間は、
ああでもないこうでもないと
ややこしい人生を送る。
ややこしくなく生きるには
どういう心構えでいればいいのか、
最近よく考えることだ。
ゴリラに、また会いに行こう。