美容院に行った日は機嫌がいい。
髪を数センチ切るだけなのに、
行く前と比べて確実に
自分の中の何かが変わったような気になれる。
表参道の美容院の帰りに、
コンタクトレンズを処方してもらうため下北沢で途中下車。
ずっと縁のなかった眼科というのは
少なからず気の滅入る場所だ。
検査をするたびに、
日頃の無理な仕事や老化などで
目が衰えていることを認知せざるをえないから。
でも大丈夫、このことにも、もう慣れなくちゃ…
そう自分に言い聞かせる気丈さが、今日はある。
大丈夫…、大丈夫だよ。
5ヶ月分のコンタクトレンズを注文して、病院を出る。
あまりに寒いし、買ったばかりの本を読みたいので、
静かで落ち着けるカフェを探す。
5分も歩かないうちに、
ワッフルの甘い匂いを漂わせたウッディなお店を見つけた。
さすが下北、これぞ求めていたものじゃ。
注文を取りに来た、目のくりっとした、ぽっちゃりめの女の子。
かわいい。
学生さんかな、それとも役者を目指しながらアルバイト?
斜め前の席には、メガネをかけて赤いコート、ブーツ姿の
アニメファン(推測)の女子ひとり。
コーヒーカップの中をスプーンでかき混ぜながら
何かブツブツ言い、ニヤニヤしている。
ふつうだったら引くとこだけど、
なにげに下北にマッチしていて違和感なし。
むこうでは、二人でボーッと煮詰まってる、ニット帽のカップル。
今日の私の服(ボーダーのタートルと
妹の手編み(!?)の赤いマフラー&ジーンズ)の田舎っぽい風情も
ぜーんぜんオッケーな感じ!
くつろぐなぁ、下北。
こんな日は、自分にがぜん甘くなる。
出てきたホットレモネードをすすりながら
あれこれ思い出す私。
こないだデパートの化粧品売り場で、
化粧部員さんが私の顔にクリームを塗りながら
「顔が小さいですねー、小泉今日子さんみたい」
と言ってくれたこと。
化粧部員は必ず何か一言お客を褒める、
私は家族で一番顔がデカイ、
なんてことは端っこに置いといて、
嬉しさを引っぱりだしてかみしめる、牛みたいに。
今日、美容院でスタイリストさんが
「冬の間は、このショートボブの感じでいきましょう、
春になったらまた違う雰囲気をって、
僕なりに一応、プランを立ててるんです」と言ったこと。
他にお客さんは何十人もいるだろうに、
私ごときにも「プラン」なるものを持っていてくれる…
嬉しさをかみしめる、牛みたいに。
そんな気分でいると、どんどん気持ちがほぐれて、
あのアルバイトの女の子も、
私に何かしら好意を持ってくれているような気がしてくる。
レモネードをテーブルに置くとき、
彼女の人懐っこそうな瞳が、そう語っていたような…。
悦に浸るっていうのかなぁ、こういうの。
ネタがあまりにも質素だけど。
ふだん自分にダメ出しばかりして
ネチネチいたぶってる毎日だし、
たまにはいーじゃん、なんて、思えるんだ今日は。
レモネードを飲み干してお店を出たら
いきなりくしゃみ連発。
さては、ショートボブ(日本語で「おかっぱ」たぶん)にして
首すじがあらわになったからか。
鼻水をたらしつつ駅へ急ぐ。