是枝裕和監督の「歩いても 歩いても」を観た。
映画のコピーには
「人生は、いつもちょっとだけ間にあわない」と書いてある。
家族の間で、本当に伝えたい思い、伝えるべきだった言葉、
やるべきだったこと…
そんなものが、少しだけ間に合わず、
だけど、みんなの人生は季節とともに流れて
やがて死も訪れる。
だからといって、どうということはない。
そんな普遍的な人生のありさまが、
ひとつの家族の夏の一日の中に
実にみごとに描かれている。
上映終了の二日前に
やっとのことで駆け込んだ。
しかし、劇場はいまだ満員。
若い人からお年寄りまで年齢層も広い。
是枝さんは、キャスティングの勘みたいなものが
非常に優れていると思う。
いくら多くの名優をあてがっていても、
いまひとつリアリティーに欠けたり、
ミスキャスティングだと思わせるものもたくさんあるのに。
樹木希林とYOUの親子役の間(ま)やリズムがとにかく絶妙で
分刻みに、観客の笑いや吐息を引き起こす。
引退した内科医の父親役の原田芳雄も、
ぶこつでプライドの高い老人の郷愁をみごとに演じている。
子役達も、「芝居をしない」をできる子をちゃんと使っていて
引っかかりがなかった。
丁寧に仕掛けられた細かい表現も
この映画の随所に観られる。
前の晩に、風呂から上がった夫が、
ものほし竿にぐしゃぐしゃにかけた青い手ぬぐい。
翌朝のシーンでは、きれいにのばされた青い手ぬぐいの横に
妻の赤い手ぬぐいがかかっている。
夫婦の長い年月のいとなみ。
そんな何気ないシーンになぜか涙腺が弱まる。
そうした小さくてあたたかなメッセージが
たくさんちりばめられている作品だ。
こういうものを作ってしまうって、ほんとにすごいな。
こんな作品にたまに出会って、
心をあたためながら生きていくのって
素敵なことだな。
そんなふうで、いいんだな。