(※この日記、よかったら1から順にのんびり読んでみてください)
朝になってしまった。
大人二人は、気を失ったように眠っている。
ビールの缶や、お酒のびんがゴロゴロ。
起こさないようにそっと片付けて表に出る。
小高い丘の上に立つ「ちからハウス」。
縁側に座るとすぐむこうに海が見える。
その手前には牛舎があって、
茶色い牛たちが草をはんでいる。
ときどきンモォーという声。
海に向かっていくつかのお墓がたっていて、
一組のご夫婦が花を持ってゆっくり歩いていく。
私を見あげて、
「朝のうちは、まだ涼しいねえ」と声をかけてくれる。
「そうですねー」と笑い返す。
縁側にごろんと横になって、朝の風に吹かれる。
何も頭に去来しない。無。
ただ、すーっと涙が流れてきた。
太鼓岩で泣いていた、まゆちゃんのことを思った。
こんな島に暮らすことが、
この体にはきっと一番いいのだろう。
なんで東京なんかに暮らしているんだろう?
にわかにその意味が分からなくなる。
単に「生まれ育ったから」居続ける東京。
自分で選択した住処ではない。
それでも私は、今日帰っていく。
何のために?
息子が起きておなかをすかせていたので
ポテトチップとサイダーを抱えて
今度は二人で縁側に座る。
ポリポリポリ。
彼は、しょっちゅう大好物のポテチを食べている。
その音は平和で、私はいつも眠くなる。
母親はなかなか起きない。
ていうか今日帰るんだけど、東京に。
それにここ、チカラ君ちだし。
当のチカラ君は、パッと起きて仕事に行ってしまった。
母、やっと薄目を開けて、開口一番
「あったま、痛ーーい」と言う。
どうにか車に乗せて、宿に向かう。
車の中でも、母、意識不明。
「しょうがないママだねえ」と息子に言うと
「でもね、お仕事頑張ってるんだよ、
最近、夜遅いときもあるよ」と健気なフォロー。
そうだね、ママは頑張ってるよ。
宿についてもお母様は爆睡。
帰るんだけど、東京に、これから!
息子は相変わらず知らん顔で、
「まみ、ヨーグルト食べよう」とか言っている。
スプーンでバナナをスライスして
ヨーグルトに入れる方法を教えると
案外器用にやっている。
「ほら、ママを頼りにしないで自分で何でもして」と
荷造りもやらせる。
そうそう、自立して生きてゆける、君なら。
やっとのことで全員の荷造りが整い、
博士にお別れを告げる。
がっしりと博士が握手をしてくれた。
黒い顔の奥の瞳が、今日も優しい。
本当にお世話になりました。
そして「いその香り」にも、ごあいさつに。
ランチの時間は終わっていたけれど、
チカラ君にお寿司を握ってもらう。
この味ともお別れだ。
結局、空港まで見送りに来てくれたチカラ君。
私は一人で、ひとつ早い便に乗る。
チカラ君と、かたい握手をかわして
またプロペラ機に向かう。
この島で出会った人達も、風景も
みんな、どこか懐かしかった。
まるで、ふるさとようだ。
人が、帰るべき場所。