友だちに待ちぼうけを食らっている間、
がらんとした代々木国立競技場の入り口に入って
植え込みの石段に座る。
今夜は何もやっていなくて、
街灯だけがあかあかとコンクリートを照らしてる。
学生のサークルみたいな子たちが
7〜8人通り過ぎただけで、もう誰も通らない。
競技場の入り口を見つめていたら
高校のとき、ホームルームの時間に
みんなでここへスケートに来たことを思い出した。
学校からブラブラ歩いて来たんだっけ。
あの入り口でガヤガヤ騒いでいる光景だけが
昨日のことのように思い出されて、
スケートをしたことはよく思い出せない。
それからちょっと大人になって観た
ドリカムのレーザーディスク。
デビューまもない吉田美和ちゃんが
初めてこの競技場でコンサートをやることになって、
その仕込みの様子をメンバーと見に来た彼女の映像が
映し出されていた。
「うわぁ、デカイわ・・」と会場を見上げ
美和ちゃんは泣いていた。
まさに 「Dreams come true」。
その後に続く彼女のコンサートの映像を見て
私は思ったのだ。
「こんな人生を生きられたら、どんなにいいだろう」と。
頬を紅潮させ、喜びを体中にみなぎらせて
その瞬間を生きていた彼女。
そのときの自分には、そんな瞬間を持つことが
遠い遠い彼方のように思えた。
日々の雑多な仕事や、澱のように積もってゆく心の疲れを
ただやっつけて、無視して、明日へ渡ってゆく日々。
このままじっとしていれば、
一生これで終わるのだと思った。
私はもう死にそうになって、
その場所から逃げ出して、そして歌を歌い始めた。
あれからもうどれくらいの月日が経ったのだろう。
美和ちゃんは一世を風靡し、もうずっと遠い人になった。
私はうんと遅れて歩き出し、
こうして国立競技場の石段にポツンと
ひざを抱えて座っている。
何をやってきたのかな・・そんな思いが
涼しい夜風に混じってやってきた。
うれしいでも哀しいでもなく、
なんだか泣きたい気持ちになった。
スケートに来た私たちの笑い声と制服のセーターが
競技場の入り口に、ずっと揺れてる。