友だちに貸していた10枚くらいのCDと
5冊くらいの本を
手さげの紙袋に入れて家へ向かっていた。
夕方の混んだ駅。
突然、紙袋がバリッと破れて
中身のCDと本が、ホームへと続くコンコースで
半径2メートルくらいに盛大に散らばった。
「きゃっ」と私は小さな悲鳴をあげて
その場に立ち尽してしまう。
買い物帰りの女の人たちが
「何やってんの?」という冷たいまなざしで
さっさと通りすぎてゆく。
CDと本くらい自分で拾えばいいのだから
それはいいのだけど、
「そんな知らん顔しなくてもいいのに」と
ぼんやり思った。
それに袋は見事に底が抜けていて
ちょっと途方にくれてしまい、
私はきっと十分な時間そこに立ち尽していたと思う。
混んだ駅でほんと迷惑な奴。
と、男の人が2〜3人立ち止まってくれて
みんなで拾ってくれた。
私はふと我にかえって
「すみません、袋が破れちゃって…」と
ことさらに言い訳した。
「ええ、いいんですよ」なんて
親切に答えてくれた人もいたように思う。
が、動揺していてよく覚えてないし、
その人たちの顔も見なかった。
その袋には友だちの家に遊びに行ったときの
スナップ写真も入っていて、
最後に男の人が「はい」と渡してくれた。
なんだかそれがすごーく恥ずかしかった。
男の人って優しいんだなぁって
帰り道にしみじみ思った。
女は何か行動を起こすときに
たとえそれがどんなささいなことであれ、
計算したり天秤にかけたり
もしものときのことに思いをめぐらせたり、
とにかく瞬時にいろんなことを考えてからやる。
個人差はあるかもしれないけど
それを無意識にやってのけている。
男の人は犬みたいに
動物的本能で行動するから
とっさの「善」ができる。
「犬」というのは、えてして卑下に使われる言葉だけれど
私は犬をこの上なく愛し敬っているので、
好ましい男の人を見ていると
愛しい犬の姿を重ねてしまう。
大きなレトリバーとか。
喜びを純に表し、怒るときは必死に怒り、
美味しそうにご飯を食べ、気持ちよさそうに眠る。
犬みたいな男の人が好きだ。