浴衣が欲しいなあーとつぶやいたら、
妹が「だったらぜひ寿屋で!」と言って
急きょ、妹と長野へ採寸に行くことになった。
寿屋というのは妹の夫の実家の呉服屋さんで、
お義父さんは3年前にお義母さんを亡くし
今では、お一人で続けておられる。
私が浴衣を欲しがっている話を妹が伝えたら
お義父さんはとても喜んで
ぜひいらっしゃいということになったのだ。
というわけで、浴衣を作りにいく旅だと思っていたら
これがビックリ!
お義父さんは私たち姉妹がやってくるというので、
すてきな企画を用意していてくれた。
黒部ダム、立山、秘境温泉、一泊の旅だ。
朝8時に長野にいらっしゃいと言われて、
ちょっと驚いたが
がんばって早起きをして妹と新幹線に飛び乗った。
長野駅の改札に着くと、
キョロキョロと心配そうに私たちを探す
お義父さんのメガネが見えた。
私は先日入院したばかりで
体が少し頼りなかったけれど、
そのお義父さんの姿を見たら
ほんとうに来てよかったと思った。
「さっ、ちょっと急ぐよ」と言われて
お義父さんはスタスタと早足で歩いていく。
「お義父さん、やる気満々だなぁー」と
横で妹が笑って小走りについていく。
何だか楽しい予感。
黒部ダム。
壮大なスケールだ。
これが完成するまでに多くの殉職者が出たことを知り、
ものすごい勢いで放水するダムを
敬虔な気持ちでながめた。
トローリーバス(電気で動くバス)と
ケーブルカーを乗り継ぎ、立山へ登る。
生まれて初めて見る景観。
外国へ来たようだ。
どこまでも高い空、
その青さと白い雲の絶妙なコントラスト。
大らかに花や葉を広げる高山植物の数々。
澄みきった空気。
こんな場所へ連れてきてくれたお義父さんに
うまいお礼の言葉が見つからない。
私はただただ感嘆の声をあげているばかりだった。
先日お義父さんが東京へ来たとき、
妹が勤務している六本木ヒルズの最上階へ
連れていったそうだ。
「あんな高い所へ連れてってもらったから
今度はお義父さんがお礼に、もっと高い所へ
連れていってあげようと思ってね」と笑う。
私はお義父さんがもっと好きになる。
ここは標高3千メートル。
その日は携帯が完全に圏外になってしまうほどの
秘境の温泉宿が予約されてあった。
露天風呂に何度もゆっくりつかり、
夜は旅番組に出てくるようなごちそうが
テーブルいっぱいに並び、3人で楽しく食べた。
いつもあまり召し上がらないお義父さんが
ご飯を3杯もおかわりして、
夜は何時間もおしゃべりをした。
さらりとした空気も木々のにおいも
初めて来た場所なのに
いちばん体に馴染む気がする。
なぜ東京などに
がんばって住んでいるのかなと思った。
とにかく素晴らしい思いをさせてもらっている。
幸せだー。
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