11月になった。
渋谷あたりへ出れば
巨大なクリスマスツリーがいきなり立っているに違いない。
あれには毎年うんざりだなあ。
もうちょっと季節の趣きをオンタイムで楽しもうよ。
昨夜怖い夢を見て目が覚めた。
帰りの電車の中でサラリーマンが読んでいた
気持悪いマンガのひとコマが、そのまま出てきた。
その日目にしたコワイものとか、残酷なものは
必ず夢に見てしまう。
精神が子供なんだな。
で、その目が覚めた夜中に
突然思い出した光景がある。
子供のころ、父の仕事の関係で
よくホームパーティーに招かれた。
欧米人ばかりの。
お家は私の家の何倍も大きくて、
マンションというやつで、
ガイコクに来たみたいだった。
そこには必ずほかのガイジン一家も来ていて
子供もいっぱいいて、
私は英語もチンプンカンプンなのに
キッチンの床で他の子たちとわりと長く遊んでいた。
母も英語は全くだめなのに、
父の隣りでみんなと一緒に大笑いしたりしていた。
よくがんばってたな。
出てくるお料理は
クラッカーの上に様々な食材がのったカナッペだったり、
大きな耐熱皿に入ったラザニアだったり、
たっぷりの温野菜だったり。
いきなりそんなものが出てくるので、
そこの家のお母さんが魔法使いみたいに見えた。
彼女はアメリカのドラマに出てくるような
笑顔の美しい優しい人で、
でも子供に注意をするときは
キリリと厳しい表情と口調になって、
子供心にカッコイイなぁと思った。
トイレに行きたくなっても、どこだか分からず、
もじもじして父に伝えると
彼女が親切に連れていってくれた。
洗面所は自分の部屋くらいの大きさで、
貝の形をした色とりどりの石けんが
ガラスの器に盛られている。
トイレットペーパーは
ピンクのお花がプリントされているフカフカのが
真ちゅうのホルダーにかかっていた。
あまりにきれいなので、
少しだけちぎって持ってかえろうかと悩んだ。
幼児体験というのは不思議だ。
べつに覚えておこうとしていないのに
ずっしりと記憶に根付いていたりする。
私はトイレットペーパーだけは
少し高くてもいいものを買うことにしていて、
オーブン料理や温野菜を友だちにふるまうのが好きだ。
全くの無意識だったのだけれど、
ずっと目標だったのかもしれない。
あとはあの青い目のお母さんのように、
美しくて聡明で強い大人の女性になることだ。
真の美しさや強さを得ることがどんなに難しいか、
それが分かった今、
目標はまだまだ遠い気がする。