桜っていうのは、春が来ると決まったようにぱあっと咲いて
いつも変わらない姿を見せるので
毎年違う自分の気持ちが、うんと浮き彫りになる。
母親が亡くなった年の桜は
まわりの音をすべて吸い込んで
深い沈黙の中で
桜の息づかいだけが聴こえてくるようだった。
涙は、心の中でボロボロ流れた。
桜の華やかさに息苦しささえ覚えて
ただ一人きりになりたい年もあったし、
桜の姿に何も心動かされない年もあったと思う。
今年、桜が満開になった朝に初めてその花を見たとき、
自分がほんの7歳か8歳か
そんな頃に見た桜と同じに見えて、
周りの空気さえも一瞬あの頃と同じ匂いがした。
それは甘くてどこか頼りなげで
私を私という一人の素の人間に、引き戻していった。
心の宝物はすべて持っている今、
そして人生というものが自分一人の手に委ねられていることを
しっかりと理解した今、
心の中は静かで
花びらのむこうの空が清々しかった。
春、始めの一歩。