妹は、この世で自分が一番不幸だと言う。
寒い夜の路上でギターをかきならし
下手な歌を歌っている少年たちや、
終電間近の駅の隅っこで寝ている
ホームレスのおじさんたちを見ると
「幸せでいいなぁ」と思うらしい。
少なくとも自分よりは。
なぜ妹が不幸かというと、
もう何年も人のために献身してばかりで報酬もなく
(つまりお人良しなのだ)
自分の理想とする仕事や生活ができないからだそうだ。
人一倍周りに気を使うし、神経も繊細なので
気力も体力も、実は限界まで消耗しているのに、
やせ衰えるとか、不幸そうに見えるとか
そういうことが全くないキャラなので
誰も同情してくれない、というのも
不幸の要素の一つらしい。
「お姉ちゃまだって、
ちょっとは幸せだなって感じる瞬間あるでしょ?
私、まったくないもん」と言う。
そのわりには、一緒にご飯を食べていると
その時間の9割は
妹が腹から出る元気な声でしゃべりまくり、
それは使えない上司の愚痴だったりするのだけど
妹に同情するより、その上司のバカさ加減にウケてしまい
私はずっとお腹を抱えて笑い転げている。
「もう信じらんないでしょ? あったまくる!」
とか言いながら、ご飯をバクッと口に入れる。
帰り道も「ああー、ほんっと私って不幸!
なんで痩せないかな」とか言いながら
大股でガツガツ歩く。
コイツのエネルギー源は「怒り」なのかもしれない。
幸せに満ちた静かな顔で
彼女が理想の仕事を淡々とこなす姿なんて、
全くといっていいほど想像できない。
まあ、がんばれ。