友だちのお父さんは一級建築士。
一級建築士のお父さんというと
静かな初老の紳士を思い浮かべそうだが、
とっても愉快でにぎやかなパパだ。
酔っぱらうとオヤジギャグが炸裂して
「パパ、もういい加減にして、退場!」と
娘と奥さんに怒鳴られる。
実際のところ最後はいつも
知らぬ間に退場して部屋でグースカ寝ている。
ママもおおらかで明るくて
どこか少女っぽさを持った人で、
会うたびに私の母を思い出させる。
私も「パパ、ママ」と呼んで甘えさせてもらっているのだ。
先日、パパ自らの設計でお家のリフォームが完成。
その改築のお祝いに招かれた。
玄関にはパパの手描きのウェルカムボードがあって、
ママがパチンとスイッチを入れると
素敵にライトアップされた。
私の名前もちゃんと書いてある。
それに本日のメニューがずらり。
「ビストロ・ヒロコ」という文字もあって
ヒロコというのはママの名前。
何十年もの間に出来上がった夫婦の静かな愛情に
こうして、ふんわりと迎えられる。
新しくなったリビングに入ると、パパがそばを打っていた。
キャップをかぶってエプロンをして
太い腕でそばの生地をのばして、
板をのせて細く丁寧に切っていく。
まだお酒が入っていないのでパパは少し無口だ。
今日のメインディッシュは、
パパの故郷の秋田から取り寄せたきりたんぽのお鍋と
特製手打ちそば。
でもその前に、まるでメインディッシュのような
数々の豪華なお料理が並ぶ。
パパはすぐにお酒が回って饒舌になる。
「三日前に声かけて、週末にホイホイ来るようじゃ、
こりゃ男がいねえな、ガハハハハ!」と大笑いしている。
私もつられて大笑い。
ママは横でパパをにらみつける。
私はそんなひとときがたまらなく幸せなのだ。
こんなふうに両親が健在で、明るい食卓があって
それはとっても素敵なことだ。
パパも、ママも、ずっとずっとこうして
若々しく元気でいてほしい。
パパはワインを一本空けた後、
宮崎の焼酎「百年の孤独」を出してきて
おいしそうに飲む。
おしゃべりはますます絶好調。
やがていつものようにママから退場命令がくだり、
パパはすごすごと隣りの部屋へ。
そこでいきなりマーラーの交響曲をかけたかと思うと
一分もしないうちに寝てしまった。
私がおいとましようとすると
むくっと起き上がって
「なんだ、せっかくマーラーかけたのにさぁ」と言いながら
ねぼけた顔で優しく手を振ってくれた。
あったかい夜をありがとう。