やっと実家に顔を出せた。
年末からずっと一人で食事をしていたので
ひさしぶりに楽しい夕餉だった。
いきなり訪ねるにもかかわらず、
私が帰るとなぜかいつもすき焼きが出てくる。
父が丁寧に味付けをするのだ。
そのすきやき鍋は私が子供のころから使っているもの。
どっしりとした鉄鍋で
今や重みのある黒い光沢を放っている。
私に子供がいれば、
この鍋を代々受け継ぐことができたのにな。
あいにく私は今歌を作ることに精一杯で
子供を作る余裕がない・・親不孝だよな。
帰ろうとしたら、父に
「タダ飯で帰らせるわけにはいかない」と
二階へ連れていかれた。
なんとそこにはマイクがセットされていて
「ギター買ったから歌っていけ」と言う。
私が歌っている間も、父は
新しく取り揃えた音響設備の調節に余念がない。
「うん、このマイクはなかなかいい」
「ギターも悪くないな」
と、ご満悦。
「よし、もうウチでばっちりライブできるから
今度、バンドの人、連れてきて」