夕方の井の頭線で
隣に九州の大学生の男の子が座った。
その子があんまりデカい声でしゃべるので
3分でその子の素性をいろいろ知ることができた。
一緒にいたもう一人の子は
その子と高校まで一緒に九州で過ごし、
今や成蹊大学あたりに行ってるらしく
ちょっと東京人っぽくなっていた。
九州から遊びにやってきた友だちを
渋谷に連れていった帰りらしい。
「この電車、えらい静かやね」と九州男は言う。
「お前の声がデカい」と、成蹊が小声で言う。
「福岡の電車はもっとうるさいのに」と九州男。
私は両親とも九州人なので、
彼のイントネーションを懐かしく楽しんでいた。
私が子供のころは母も九州弁をよく使っていたので
たいがいの言葉は九州弁で言えた。
なのにだいぶ忘れたな、と思った。
「どこ行くん?」
「吉祥寺」
「そこは、渋谷くらい若い人おるん?」
「まあまあな」
「ここ東京?」
「全部東京!」
「俺、『電車男』見とったっち、
昨日秋葉原行ったけん、あんなの全然おらんかった」
「よく探せばいるだろ、きっと」
などど、フレッシュ極まりない会話が続く。
日本もなかなか広い島国なんだな。
九州男は、しゃべってるうちにまた声が大きくなり
成蹊にたしなめられ、おとなしくなる。
ひざに両手を置き、子供のように座りながら
「俺、緊張しとう」なんて言ってる。
彼のあまりの素朴さに、
コイツと飲みに行ってみたいなぁ、と思った。
「帰りに俺の寮に寄るか?
まずは吉祥寺で寿司喰ってから」
「おう、寿司喰おう」
何、寿司?
寿司なら安くておいしい店を知ってるぞ!
思わず会話に割り込みたくなる衝動をぐっとおさえる。
「で、俺、帰りどうやって帰ったらいい?」
「俺がまた途中まで送る」と成蹊。
「お前…、人間できとうね」と、しみじみ九州。
「山本先生に鍛えられたけん。先生、元気?」
「おう、山本先生、元気でやっとうよ」
と、話は彼らの高校の恩師の話題へ。
なーんかいいなぁー、古き良き日本の若者の姿。
いいもん見せてもろたと。