朝、親子の母がダイビングへ行ってしまった。
彼女が戻ってくるまで、
博士が、私と息子を遊びに連れてってくれるという。
この博士、実は、地元の電力会社の重役さんで、
いうなればサラリーマン。
平日は会社勤めをするかたわら、
宿のお客をこうして無償で面倒みてくれている。
たぶん毎日3〜4時間しか寝てないだろう。
考えてみると、チカラ君にもチモリ君にも、
みんなこの島の人には、そういうところがある。
都会人にありがちな「こうしてあげなくては」という
義務的な意識は、はなっからなく
「おはよう」のあいさつをかわすくらい自然に
遠くから来た者たちをもてなしてくれる。
それも一切の疲れを見せず、常にパワー全開で。
「まみちゃん、自転車乗れる?」と博士。
素朴すぎる質問に、「はい、まあ」と私。
すると博士、荷台のあるランドクルーザーみたいな車に
マウンテンバイク一台を積み込み
「さあ、行くよ」と言う。
「朝だけど、かき氷食べていこうか?」と博士。
自称「かき氷クイーン」(かき氷大好きで、
いくら食べても頭がツーンとならないので早食いも可)の私は
一気にアドレナリン噴出。
大きな倉庫を改造したようなお土産屋さんの一角、
「かき氷」の旗、イェーイ!
高さ30センチはあろうかという
この人生最長のかき氷、これがなんと200円!!
幸福感にうちのめされながら、8歳と並んで食べる。
だがクイーンの私も、博士の食いっぷりには追いつかず、
惜しくも銅メダル。
でも、なかなかオツな一日のスタートだ。
「紀元杉」に行く。
つまり樹齢2000年の杉。
山道にさしかかると、
博士が「後ろに乗って」という。
息子と荷台に立つと、
スピードをあげて車が走り出す。
「インディージョーンズみたい!」と息子。
♪タッタラッター、ターララーと
インディージョーンズのテーマを二人で歌いながら
車の屋根にしっかりと手をかける。
カーブにさしかかると振り落とされそうになり、
二人で笑いながら絶叫する。
木々と木漏れ日が、どんどん後ろに流れていく。
紀元杉をながめて、山からの湧き水を飲む。
おいしーーい。
この島に来て飲んだ水といえば、ぜーんぶ湧き水。
甘く、やわらかく、母のような大地の味がする。
自分は、そこから生まれてきた一員だと感じる。
「さあ、乗って」と博士が自転車を車からおろす。
「??」
「帰りは全部下りだから」と、自転車と私は、道路に。
「後からついていくから」と博士。
「頑張ってー」と手をふる息子。
「えっと…」
とにかく自転車をこぐしかなく、
サドルにまたがる。
自転車はどんどん加速して、
車なみのスピードになる。
みるみる私は山をくだっていき、
後ろからついてくる車を大きくかけ離す。
うっひょーっ!
すっごいアスリートになった気分。
爽快さと同時に
「これで転んだら、死ぬな」とも思う。
バイクにハマる人たちは、こんな気分なんだろうか。
ジリジリと日は射すものの、
ものすごい速度で帽子が飛ばされそう。
ええいっ。
瞬間に帽子を取り、ポケットにつっこむ。
日焼けが何だ、シミそばかすが何だ、
私はアスリートだー!
標高1300メートルから、数十キロ、
私は自転車で降りてきた。
なおも元気だ、いや、むしろ元気が増したようだ。
屋久島びとになってきたか?
河原で博士に買ってもらったおにぎりを食べ、ひと休み。
ここで、息子の母親と、岡山から来た女子大生のグループや
東京から来たファミリーと合流して
次なる博士の企画は、なーんと「流しそうめん」。
二つに割った長ーい竹をかつぎ、
博士はタッタと山の中へ入っていく。
博士の奥さんが、大量のそうめんと、
めんつゆや薬味も持たせてくれた。
突然視界が開けると、
ゴーッと勢いよく流れる川、大きな岩場。
そこに博士が竹で、
首尾よく流しそうめんのレーンを設置していく。
流しそうめん、初体験。
川の流れと同じ速さでそうめんが流れるので、
もたもたしていられない。
女子大生たちも黄色い歓声をあげて
一生懸命そうめんをすくっている。
私もしゃがんで必死にすくう。
無の境地。
突然、「屋久島の人ですかー?」と女子大生に聞かれる。
おお、出始めたか、オーラが。
明日帰るので、チカラ君が飲み会をやってくれるという。
場所は、チカラ君が建てた秘密基地「ちからハウス」。
秘密基地といっても、立派なログハウス風の家。
スケールが違うね、やっぱ。
チカラ君のお店が終わるのを待って、
親子を乗せ、「ちからハウス」へ車を走らせる。
ここでもチカラ君がたくさんのお魚をふるまってくれた。
チカラ君と母親は飲みまくっているので
私は例によって食べまくる。
息子は傍らで、トムとジェリーのビデオをのんびり見ている。
いつものことだが、この子はお酒の席に慣れている。
毎夜酔っぱらって寝てしまう母親にも、知らーん顔。
将来有望。
お酒が少しずつ回ってきた二人は、絶好調。
「酒で記憶を失った話」をかわりばんこに披露している。
まあね、いろいろあるわね。
缶ビールを10本ほど空けたあと、
伝説の屋久島焼酎「三岳」に突入した大人たちを横目に
息子のタオルケットに潜り込む。
寝息をたて始めた彼のほっぺにチューをして
私も目をつぶる。
あっという間に過ぎた4日間だったなぁ。
この子も、この夏をずっと思い出すんだろうか?
子供時代のいい思い出をたくさん作ってもらってるね、
ママにも感謝だぞ、酔っぱらいだけど。
「しあわせー。」
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歴史をずっと見つめてきた杉たち。
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元気!
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川の水の冷たさが、
そうめんをより一層おいしくしてくれます。
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