屋久島に行く。
鹿児島空港から乗り継ぎで30分。
搭乗口に入っていくと、
あら?… なぜか外。
真夏の太陽がギラギラ照りつける。
ふとむこうを見ると、
ちっちゃーいヒコーキがとまっている、プロペラの。
えっ… あれ?
思わず、そこにいた整備員のお兄さんに
「あのー、これ、屋久島行きますよね?」と聞く。
機内は、荷物入れで思いきり頭をぶつけるほど狭く、
しかも私、プロペラの真横。
まもなくプロペラが、
ブロンッ、ブロンッ、ブロロロロッ、ボボボボボッ…と
すさまじい音で回り始める。
あー、これ、30分もたないかも。
見ると、ビミョーに安定感が悪く、きしみがちに回るプロペラ。
不安満載で、離陸。
いい感じに気持ち悪くなり始めたところで、
CA(キャビンアテンダント 最近はこう呼ぶらしい)さんが
アメを持ってきてくれる。
「虹が出てますよ」と窓の外をさしてスッチースマイル。
見ると、プロペラのむこうに、うっすらと七色の光。
私もニッコリほほえみ返す。
気持ち悪くても、笑えた。
最低限の社交性を持った大人に育ったワタシ。
旅は、どうでもいいことに思い当たる時間だ。
プロペラの爆音にも慣れたころ、早々と到着。
遠路はるばるやってきたのに、
滑走路にいる人たちはみんな日本人で、
ちょっとフシギな気がした。
学校の教室二つ分くらいしかない小さな空港。
手荷物はベルトコンベアーではなく、
人がヨイショと一個ずつ運んできてくれる。
友人親子が別便でやって来るまで2時間ほど、
時間をつぶさなくてはならない。
気づくと、すごいお腹がすいてる。
とりあえず何か食べたい。
空港の外に一歩出ると
ウッ… 灼熱の太陽。
三歩で回れ右をして空港に戻る。
仕方なく、空港の奥にある小さな食堂に入る。
お客は、ビールをかっくらっている地元風のおじさんのみ。
おそるおそる、かけそばとトッピングでとろろを注文。
「かけそばのお客さーん!」とおばさんに呼ばれ、
食事ののったお盆を持って
滑走路に面した窓際の席へ。
かけそばのおつゆは、ほんのり甘みがあって優しい味。
九州出身の母の味に、やっぱり似てる。
とろろは「屋久とろ」といって、美味!
ねばりけはマシュマロくらいあって、
これまた絶妙な甘みがある。
大満足で、外のブーゲンビリアとプロペラ機をながめながら
おそばをすする。
あのプロペラ機、循環バスなみに
鹿児島と屋久島を行き来しているようだ。
なんだか新鮮。
それにしても、これからどうやって時間つぶそう…。
食堂のおばさんが隣のテーブルをふいていたので
たずねてみる。
「そうねー、1時間ちょっとじゃ、
どこ行くにも物足りないねぇ」と、おばさん。
「あの… ここで友だちを待っててもいいですか?」と聞くと
「ああ、いいですよ、ゆっくりしてください」と言う。
浅黒い顔、深く刻まれた優しいシワ、
おおらかなイントーネーション。
とても懐かしくて、
初めてなのに、帰ったきた気がした。
やがて友達親子の飛行機が到着。
8歳の息子の方には私が来ることをナイショにしていて
ここで待ち伏せして驚かす計画だった。
お土産屋の陰のベンチに隠れて、顔をのぞかせると
アッという顔をしてこっちへかけよってくる。
私の隣に無言で座って、少し怒ったような顔をしてる。
「ママ、今度はナイショにしたら、怒るから」と言う。
やわらかな子供の感性。
彼と母親は,屋久島2回目。
すでに現地の人達と親しいので、
私は何の予備知識もなく、ふらりとやってきた。
泊まる所は「パッション館」という名前の宿。
ここには、タクさんというご主人がいて
去年もいろいろな所に遊びに連れていってくれたそう。
8歳の彼はタクさんを「博士」と呼んで慕っている。
真っ黒な肌に、頑強な体つき、笑った目が優しい。
早速自己紹介すると、博士に「大きいねえ」と言われる。
宿では自炊もできるが、
夜ごはんはいつも「いその香り」というお店で
食べることに決めているそうだ。
ここにはチカラ君という大将がいて、
彼もまた昨年、友人親子をとことん面倒見てくれたらしく、
息子は「チカラくん、チカラくん」と慕いまくっている。
宿に着いて一休みすると、
さっそく「いその香り」に出かけた。
いつも話に聞いていたチカラ君とご対面。
ガッチリして元気がよくて明るい人だ。
彼の大きな声と笑顔で、
これから数日間の屋久島ライフに
パアッと光が射したみたい。
さっそく屋久島のお魚ざんまい。
地魚は、どれもおいしくプリップリ。
中でもチカラ君のお兄さん(漁師さん)が
朝獲ってきたばかりのトビウオの天ぷらは
ふわっふわで上品な旨味があって、感動の味。
ああ、しあわせ。
こんな幸せを享受できるほど、
ちゃんと毎日を頑張ったかー? おまえ。
屋久島のお醤油は、甘い。
普通のお醤油にみりんが入ったような味。
さっきのおそばのおつゆも、これだったんだ…。
小さな日本なのにね、まだまだ広いね。
帰りがけに、
「明日の朝、釣りに行こう!」とチカラ君が誘ってくれる。
夜、息子は博士とナイトツアー(ウミガメの赤ちゃんが見られる)に
出かけた。
母親は例によって、酔っぱらって爆睡。
私は、たいてい旅の一日目は枕が変わって眠れない。
息子も帰ってこないので、それも気になりつつ
寝返りを繰り返していた。
深夜2時過ぎ、8歳、帰宅。
母親は何も気づかないご様子。
間もなく親子の寝息が重なり始める。
ふと見ると、二人とも同じ方向を向いて、
同じように丸まって、クークー眠っている。
真夜中に一人ほほ笑む。
外が明るくなり始めた。
思いきり真横です。
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おふくろの味
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