「観劇」というのは、
小学生のころ行った
劇団四季のねずみがやたらいっぱい出てくるやつと、
おととし観た「長くつしたのピッピ」だけで、
大きな劇場でのお芝居はこれが初めて。
記念すべき第一弾が、橋爪さん主演だなんて
こりゃやっぱり何かある。
妹はもともと演劇の世界の人なので
初体験の保護者になってもらう。
せっかくチョコとジュースを買っていったのに
「飲食禁止」となっていたので
コートの下でそっと箱を開けていたら
妹に「そんなコソコソしなくていいから。
そのかわりジュースは暗くなってからね」と
指導を受ける。
お昼を食べてから行くつもりでお店を探したのだが、
一本道を迷い込むと
住宅街の中にラブホテルがいくつもあったり、
看板がほとんど韓国語だったり、
ものすごい異国な感じで、不思議な街なみ。
ぐるぐる歩き回って、やっと小さなお寿司屋さんを見つけ
妹とそこに入った。
のれんをくぐったとたん、お店の板さんと私たちは
同時に「えっ」って顔になった。
板さんは唐草模様みたいなぴったりしたシャツを着て
それが全身刺青のように見えた。
横山やすしさんをもっと怖くしたような顔、
数人のお客さんはみんな近所の常連という雰囲気で
その完全なる調和を私たちがぶち壊していた。
とりあえず席について
メニューにある「当店自慢」のあなご丼を二つ頼む。
板さんはもくもくと穴子丼を作り、
やがて目の前にデザートのりんごと共に並ぶ。
たれがほんのり甘口でなかなかおいしい。
少々の居心地の悪さを感じつつも
私たちが穴子丼を平らげるころ、
板さんがお皿を持ってやっきた。
「さっき、穴子ちょっと少なかったから」
お皿には焼きたての穴子が
ホカホカと湯気をたてている。
おじさん、結構やさしい。
すっかりほっとした私たちは
「わぁー、ありがとうございまーす!」と
満面の笑顔でお礼を言った。
お金を払って「ごちそうさまー」と
のれんをくぐろうとすると、板さんが言った。
「まいど!いってらっしゃい!!」
えっと、その、つまり…
「いってきまーす!」
妹が元気よく答えた。