人間なんて薄情なものだ。
別れてしまえば、わりとあっさり忘れられる。
というか、これは男より女の、特徴なのかもしれない。
とくに私は、その傾向が顕著だ。
新しい町には、もう何年も住んでいたように
すっかり馴染んでいる。
ちょっと下町風味もあり、
小さなお店がいっぱいあって
どこも適度ににぎわっていて楽しい。
大きなスーパーマーケットでは
我がもの顔でカートを押して歩き、
品物をポンポンと入れてゆく。
そういえば、以前住んでいた町では、
歩いて気軽に行けるスーパーがなくて
駅ビルでいつも高い買い物をしていた。
お肉屋さんや八百屋さんは、ビルの一番奥で、
混んだ食品街をずーっと歩かなくてはならず
不便だった。
別れると、その短所を思いだして、
別れてよかったんだと、そう思う。
前住んでいた町の駅のホーム。
早朝や深夜には、緑の濃い匂いがして、
春には、桜の花びらがはらはらと舞い降りた。
つらいことも、そのホームをゆっくりと歩くときだけ
ほんの少し、忘れられた。
そんな甘い記憶は、極力胸の奥にしまっておく。
新しい場所の長所を数え上げて、
別れた場所の短所をちょっと思う。
すると何かとうまくいく。