住んでいた家のカギを不動産屋さんに返す
「立ち会い」の日。
がらーんとした懐かしい家に戻って
不動産屋さんが来るのを待った。
毎日寝る前にストレッチをやった寝室の床。
同じストレッチのポーズをとってみたりする。
パソコンのキーボードを打つ手を止めて
ボーッと眺めた仕事部屋の窓。
その景色だけをじっと見ていると
まるで、後ろには大きなソファがあって、
となりにはピアノがあって、
書きかけの譜面が散らばっているような気がする。
でも、部屋はどこもがらーんとしている。
絵に描いたようなセンチメンタル。
しょぼんとするってのは、こういうことか。
ちょうど4年前、この家を決めて
まだ家具も何もない部屋に
ギターを一本だけ持ってきた。
フローリングの床に座って
ポロンと弾いて、ちょっと歌った。
何もない部屋では音の反響がものすごくて、
こんな家で音楽できるんだろうかとかなり焦った。
でも、4年間、そこでたくさん歌った。
家ってのは、人がいて、その人の物があって
その人の温度があって、
初めて家なんだな。
私が愛していた家は、空っぽになって、
少しよそよそしくて、
そのよそよそしさは少しずつ増していって、
心の執着を徐々にとかしていく。
元気のいい不動産屋さんの青年が来たころには
私の家は、もとの空家になっていた。
「きれいに住んでましたね、
こんな家、久しぶりに見たなぁ」と笑ってくれた。
サヨナラ、できた。