しおりちゃんが、映画に誘ってくれた。
小林聡美さん主演の「めがね」。
仕事帰りの私を気遣って、
しおりちゃんがソフトボールようなおにぎりを作ってきてくれた。
ポットに入ったあったか〜いお茶も。
おかかや梅干しや、食べてるうちにいろんな味が出てくる。
映画館のロビーで、ひと噛み、ひと噛み、味わって食べる。
人の握ったおにぎり、
私たちが失いつつあるもの。
新宿高島屋の12階のシアターに初めて行ったけど、
スクリーンがあまりにでっかいのでビックリした。
オーケストラボックスのようなスペースもあるので、
きっとオペラなんかも、やれるんだろう。
なのに、その広〜い客席に観客は30人くらい。
真ん中の見やすいスペースにパラパラと座ってるだけ。
あら、贅沢。
「めがね」の登場人物は、
みんなめがねをかけている。
だけど、みんながめがねをかけていることに
かなり途中まで気づかない。
めがねは顔の一部です。
ロケは与論島みたいだけど
設定は架空の南の島で、
仕事というか、世間というか、それに疲れた女性が
この島の小さな宿にやってくるところから始まる。
小林さん扮するその主人公も、
宿の主人も、
近くの高校教師も、
年に一度島へやってくるおばさん(もたいまさこさん)も、
その素性や関係性は、どことなしに謎めいている。
南の島の美しい風景の中で
交わされるセリフはほんの少し。
数えろって言われたら、たぶん数えられる。
あとは波の音や鳥の声や、
潮風にまぎれるマンドリンの音色や、
メルシー体操(ここでみんながする体操)の音楽だけ。
だけど、たった一つのセリフに、
たぶんそこにいる人たちすべての心のどこかを
コチンと叩く何かがある。
風や波の音も、かき氷のスプーンが器にぶつかる音も、
何もかもが、いつしか
静かで奥ゆかしいメッセージを持ち始める。
ああ、日本にもまだ
こんな映画を作る人がいたんだ…
そう思うとうれしい。
久しぶりに誇らしげな気分。
誰も死なないから「号泣」はないし、
恋愛のエッセンスもゼロ。
極めつけは、謎めいた人々のその謎が
一切明かされることなく、さらりと終わる。
でも、「すごくいい映画を観た。」という満足感に満ち満ちて
映画館をあとにできる。
人間がかつていつもフル回転させていた「感性」の部分。
その在処(ありか)を気づかせてくれる映画だ。
ブラボー。