お友だちのしおりちゃんと
「かもめ食堂」を観にいった。
彼女は仕事の空き時間にたまたま一人で観て
「まみちゃんともう一度観たい!」と
思ってくれたのだそうだ。
彼女は私の感性の種類をよく理解してくれていて
貸してくれる本もCDも
もう一つ新しいものを買ってしまいそうになるほど
いつもとっても気に入ってしまう。
そんなしおりちゃんオススメの映画だ。
主演は小林聡美で、
そこに片桐はいりと、もたいまさこが加わる。
ヘルシンキでたった一人で
和食の食堂を始めた女の子の話なのだけど、
これといったストーリーもなく、
食堂に設置されたカメラに映るものを
眺めているような感じ。
なのに不思議と
湿度のあるあったかい感覚が胸に残り、
その食堂の空気感を懐かしく求めてしまう。
小林、片桐、もたいという3人の絵面も
結構ものすごいものがあって、
何より、彼女たちの芝居の独特のコクが
映画を他に類を見ないものにしている。
考えてみれば、私の好きな地味なイタリア映画と
通じるものがある。
しおりちゃんはそのことを知っているのだ。
話の展開もオチもなく、盛り上げる音楽もなく、
そこにあるのは、ふとした瞬間の人の深遠な表情と
土地のにおいだけ。
「かもめ食堂」には数々のおいしいものが出てくる。
最初のおいしいシーンはシナモンロールを作るところ。
粉をこねて、シナモンをふりまき
くるくるっと巻いて、等分に切ってオーブンへ。
こんがり焼けたシナモンロールの香りが
映画館じゅうに広がるようだ。
夕食前のお腹が思わず鳴りそうになって、こらえる。
そのほかにも、とんかつ、肉じゃが、分厚いサケの塩焼き、
ぽってりしたダシ巻き玉子、唐揚げ、ほかほかのご飯。
エンディングの井上陽水の晴れやかな歌声が響きわたるころには
みんながお腹を盛大に鳴らしていたに違いない。
映画が終わると
私たちは早速イタリアンのお店へ飛び込み
シャンパンで乾杯する。
するとしおりちゃんがいたずらっぽい笑顔で
バッグから包みを取り出した。
「これ、シナモンロール。
まみちゃんが食べたくなっちゃうと思って」
「かもめ食堂」
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