サックス奏者 鈴木明男さんのバースデーライブに行った。
超満員のお客さま。
そして、彼を慕う大勢のミュージシャンが参加されて
ステージは序盤から早くも大きな盛り上がりをみせる。
どのミュージシャンも鈴木さんを心から敬愛し、
演奏をしながら、その美しいサックスの音色に心をとかしているのが分かる。
彼がこれまでやってこられたお仕事の厚みと奥深さ。
それをまぶしい気持ちで見つめ、
深い森の霧のような重厚かつ繊細な音に身をゆだねていた。
二部では、長く鈴木さんと共にステージを踏まれてきた杏里さんが
ゲスト出演され
「オリビアを聴きながら」を歌ってくれる。
私は不覚にも涙がボロボロと流れてしまい、
ぬぐってもぬぐっても流れるので、もう顔を濡らしたままでいた。
とても光栄なことに、私は前回のライブで
鈴木さんに演奏をしていただくことができた。
そのご縁で今、この場に来ることができて
こうして杏里さんの歌声を、初めて生で、
鈴木さんのサックスとともに聴けたこと、
その幸福に胸が震えた。
ただ、あんなに涙が止まらなかったのはなぜだろう、と考える。
10代の頃から杏里さんが好きで、
その頃はまだウォークマンの時代で、
カセットテープに彼女の曲をたくさん入れて、いつも聴いていた。
すぐに思い浮かぶのは
鎌倉の七里ガ浜高校あたりの堤防に座り
何時間もイヤホンで杏里を聴いていた風景だ。
あの頃はまだ歌手になるとは夢にも思っていなかったし
ただただ、杏里の澄み渡った声と、美しいメロディー
そして、その世界に自分をすっぽりと包み込んでくれる歌詞
それに憧れ、酔いしれていたと思う。
そうして自分の未来に胸を躍らせながらも、
結局は何も見えないまま、うつうつとしていた。
あの頃の自分が、今の私に会いに来た。
そう感じた。
未来を夢見つつも何も見つけられず
若さを浪費し続ける無能な若者であったことは確かだけれど
そのときはまだ、澄んだ水のようだった。
あれから私は、たくさんの誤った選択をし、
人を傷つけ、自分を傷つけてきたのだと思った。
自分で歩いてきた今いるこの場所が、急によそよそしく感じられ、
オリビアのメロディーに浮かび上がるあの頃の自分が
悲しい目で私を見つめているようにも見えた。
あの七里ガ浜の堤防に戻れたら、と思う。
私はどんな選択をして、どんな人生を歩んだだろう。
それでも
私は今いるこの場所を立ち去ることはできない。
この場所から、さらに人生を紡いでいかなくてはならない。
時に転びながら、不器用な真面目さで歩いてきた自分に
少しだけいたわる気持ちも生まれて
また涙がこぼれた。